東洋医学と西洋医学の違い、メリット・デメリット

一言で「東洋医学と西洋医学の違い」と言っても色々ありますが、代表的なものを1つあげるとすれば、「科学力で治療を行う西洋医学」「自己治癒力を高めて治す東洋医学」と言えます。

このところテレビや雑誌で東洋医学(鍼灸、漢方)がクローズアップされてきましたが、「東洋医学と西洋医学は何が違うの?」「自分の病気はどちらの治療が向いているの?」「東洋医学はどんな病気の治療ができるの?」など疑問があると思います。そこで、東洋医学と西洋医学の違い、メリット・デメリット、特徴をお話しすることで、これらの疑問にお答えいたします。

東洋医学と西洋医学の違い

東洋医学と西洋医学の大きな違いと言えば、「西洋医学は、お薬や外科手術、医療機器などの科学力を駆使して素早い治療を行う」、「東洋医学はその人の自己治癒力を高めることでからだの内側から治す」という点です。

西洋医学には、スピーディーに病巣を見つけて治療できるという利点があります。この利点を生かし、病院では救急救命や命に関わる病気の治療が行われ、日々、多くの命が助かっています。

一方、東洋医学は、多少時間はかかるけれども根本から治療できるという利点があります。お薬だけでは治りにくい自律神経系や心療内科系、婦人科系、消化器系などの病気、また、慢性化した痛みやしびれで困っている人や、つわりや逆子で悩んでいる妊婦さんなどが鍼灸院をおとずれ自己治癒力によって快方していきます。近年では、病院の不妊治療だけでは妊娠できない女性が鍼灸や漢方に通っています。

西洋医学のメリット・デメリット

西洋医学のメリット

  • 検査機器で病巣や病原を見つけ、素早く治療することができる。
  • 脳卒中や急性心筋梗塞など、一刻を争う病気の救急救命に長けている。
  • 癌などの病巣を取り除く手術や大けがなどの外科的な治療が得意。
  • 細菌やウイルスなど病原が特定できれば、薬で治療することや、ワクチンで感染予防することができる。

西洋医学のデメリット

  • 検査で異常が見つからないと、対症療法(薬で症状を抑える)で様子を見ることになる。
  • 専門性が非常に高い反面、汎用性が低いため、病気や症状ごとに専門の科を受診しなければならない。何科を受診すればよいか迷うことがある。
  • 妊婦は副作用のことを考慮して薬の使用を控えることがある。この場合、積極的な治療は行われず経過観察になる。

こうしたメリット・デメリットがありますが、この背景には西洋医学が「科学力をもって人命を救う医療」として発展してきた歴史があります。

元々は、欧米で生まれた医学で300~400年の歴史があります。新たな感染症や戦争などが起こるたびに治療法が生まれ進歩してきました。昔は今ほど医学が発達しておらず、結核菌や赤痢菌、コレラ菌などの感染症は脅威とされてきました。特に結核は、死因のかなりの割合を占めていました。しかし、結核菌の薬が開発されたことで、それまで不治の病と恐れられていた結核は、それほど怖い病気ではなくなりました。その後も様々な薬が開発され、今日では細菌による感染症で亡くなる人はかなり少なくなりました。つい最近では、新型コロナウイルスのワクチンと治療薬が開発されています。

外科手術の分野では消毒や麻酔の技術が確立し、痛みのない安全な手術が行われるようになり、多くの命が助かるようになりました。近年では、臓器移植の進歩により幼い命が救われたり、不便な生活から解放され健康的な日常を送れるようになったりしています。

また、西洋医学を語る上で忘れてならないのは、医療機器の進歩です。病巣やウイルス・細菌などの病原をみつけるために、レントゲンやCT、MRI、顕微鏡などの高度な医療機器が開発され、原因を素早く特定することで迅速な治療が行えるようになりました。

これらの医療技術を駆使して、脳卒中や急性心筋梗塞などの救急救命や外科手術、生命を脅かす感染症の対策、さまざまな薬の効果など、臨床の現場では西洋医学が得意とする治療が施されています。

東洋医学のメリット・デメリット

東洋医学のメリット・デメリットは、西洋医学の真逆です。

東洋医学のメリット

  • 西洋医学的には原因が明確になっていない病気や症状でも治療が行える。
  • 副作用の心配がないので、逆子やつわりなど妊婦の治療を行うことができる。
  • 様々な症状があらわれる疾患でも一度に治療が行える。

東洋医学のデメリット

  • 一刻を争う病気の救急救命は行えない。
  • 大ケガなどの治療は行うことはできない。
  • 重篤な感染症の治療には向かない。

これらの背景には、東洋医学ならではの特性があります。東洋医学は、今から二千年以上前に中国大陸で生まれ、6世紀前半の飛鳥時代の頃、日本に伝わってきました。古来より、「人間は本来健康体で、たとえ病気になったとしても、自分で治せる力がある」と考えられてきました。これを自己治癒力(自然治癒力)と呼びます。

たとえば、風邪をひいたときは、温かくして安静にしていればいつの間にかなおってしまいます。転んで骨折しても、患部を固定していれば骨は自然にくっつきます。気持ちが落ち込んだときも、気分転換したり、親しい人に話を聞いてもらったりしているうちに立ち直ることができます。これらは、誰もが持っている自己治癒力(自然治癒力)です。東洋医学を理解する上でとても重要な事なので、もう少し具体的にお話します。

人のからだには、免疫という機能があります。みなさんも聞いたことがあると思います。これは、ウイルスや細菌が体内に入ってこないように守ったり、たとえ侵入されたとしても退治したりする機能です。風邪をひいたとしても、免疫機能が働き、侵入してきた風邪ウイルスを撃退してしまえばなおってしまいます。
骨には、骨芽細胞と破骨細胞という2種類の細胞があり、日々、骨を新しく作りかえています。骨折したときも、2つの細胞が協力して修復しています。
脳内には、セロトニンとよばれる幸福感や安心感を伝える神経伝達物質があることがわかっています。気持ちが落ち込んだとしても、セロトニンのはたらきで立ち直ることができるわけです。

このように人のからだには、病から回復するための様々な機能が備わっています。この1つ1つの機能が自己治癒力(自然治癒力)なわけです。もちろん、顕微鏡すらなかった時代に、免疫や細胞や神経伝達物質の存在などわかるはずもありません。でも、東洋医学は、数千年にわたる治療の積み重ねの中で、治す力の存在を確信し治療に生かしてきたのです。そして科学の目覚ましい発展によって、その実体がだんだんと解き明かされています。

病院も薬もない時代から人々が健康に暮らせてこられたのは、ひとえに自己治癒力があったからです。そして、今もかわらず皆さんのからだに備わっています。

でも時に、自己治癒力が低下してしまうことがあります。そうなると、病気は長引くことになります。場合によっては、お薬を飲んだり病院で治療を受けたりしてもなかなか治らなかったり、いいと言われることを色々試しても良くならなかったり、とても悩ましい状況になります。

東洋医学は、「なぜ自己治癒力は低下してしまうのか」「どうしたら活性化できるのか」、長い歴史の中で試行錯誤を繰り返し解き明かしてきました。そして、鍼灸治療や漢方薬といった形で脈々と現代に受け継がれているのです。

東洋医学と西洋医学の特徴

西洋医学は、原因がはっきりと解明され治療法が確立されている病気に対しては力を発揮します。特に、命に関わる病気や大ケガの治療は最も優れている点といえます。しかし、その反面、自律神経失調症や更年期障害、機能性不妊などのように、原因が明確になっていない病気や検査しても異常が見つからない症状に対しては、薬で症状を抑える対症療法が中心で効果的な治療は行えないといった特徴があります。

一方、東洋医学は「自己治癒力を高めて病気を治す」ということが基本なので、肩こりや腰痛だけではなく、お薬だけでは改善しにくい自律神経系や心療内科系、産婦人科系、消化器系、免疫系など様々な病気の根本治療が行えるといった特徴があります。もちろん、西洋医学的に原因不明とされる病気でも治療が可能です。ただし、治療に少々時間がかかるため、一刻を争う救急救命は行えません。また、輸血や止血処置などが必要な大けがなどの治療も行うことはできません。

東洋医学と西洋医学、どちらが優れているというものではありません。各々に優れた点があり、どちらも人々の健康を取り戻すためにある素晴らしい医学です。それぞれのメリット・デメリット、特徴をよく理解した上で選択、あるいは、併用をしていただくといいでしょう。

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著者プロフィール 磯部律元

2013年「はなもも鍼灸治療院」を開設。東洋医学に精通し鍼灸師として数多くの施術を手掛ける。同時に、生理学、解剖学、病理学などを学び、人体のしくみについて造詣を深める。
妊活、妊婦の施術を得意とし、自律神経の乱れや慢性化した痛みなどにも幅広く対応している。のべ1万人以上の施術実績を持つ。
根本治療的な鍼灸とここちの良い施術を追求しつづけている。