当鍼灸院で妊活の基本方針を「温かなからだ作り」にしているのには、色々な理由があります。今日は、そのなかからミトコンドリアについてお話します。
では、卵子には、いったいいくつぐらいあるのでしょうか。実に10万個ものミトコンドリアが存在しています。一生拍動し続ける心臓をはるかに上回る数です。たった1つの小さな小さな卵子が、細胞分裂を繰り返して胎児に成長するには、それだけ膨大なエネルギーが必要ということなのでしょう。
卵子は、ミトコンドリアが作り出すエネルギーを使って成熟します。そして、通常、毎月1~2つの卵子が排卵します。排卵した卵子は、卵管の中で精子と出会って受精卵になり、細胞分裂をはじめます。もちろんこの時にもエネルギーは必要です。もし、ミトコンドリアのはたらきが不十分だった場合、エネルギーが不足して細胞分裂が止まってしまうことがあるかもしれません。そうなると受精卵はもう育たなくなります。
うまく細胞分裂の進んだ受精卵は、卵管を通って子宮内にたどり着きますが、この時にもミトコンドリアのはたらきがなくては、着床は起こりません。なぜなら、子宮内膜も細胞内のミトコンドリアが作り出すエネルギーを使って、受精卵が着床しやすいふかふかの内膜に成熟するからです。
受精卵が無事着床できると、今度は胎盤が作り始められます。この際にも、子宮内膜の細胞内で産出されるエネルギーが使われます。
このように、卵子の成長から着床、妊娠に至るまで、その全過程においてミトコンドリアのエネルギーが必要になります。
ここで注目すべきことは、ミトコンドリアは、温かい環境の方が、活発にエネルギーを作り出すということです。逆をいうと、からだが冷えていては十分なエネルギーは作られないということです。ミトコンドリアにとって、理想的な体温は、36.5℃~37℃くらいです。
当院で温かなからだ作りを子宝鍼灸治療の基本方針にしているのには、このような理由もあるのです。
もちろん、「温かいからだ」が妊活のすべてではありませんが、ミトコンドリアのはたらきが活発になる環境を作ることはとても大切です。自然妊娠を望んでいる方も、病院の不妊治療を受けている方も、エネルギーが十分に作られるからこそ、食事で摂った栄養や、病院で補充されるホルモンやサプリメントが手助けとなって、妊娠に繋がっていくのだと思います。
<参考文献>
体温はなぜ37℃なのか【2009年10月号】東邦大学ホームページ理学部生物学科
人が病気になるたった2つの原因 安保徹 講談社