男性不妊の90%以上は精子をつくる機能に問題がある、造精機能障害であることがわかっています。造精機能障害とは、精子の形成や成熟ができないことで、精子の状態によって無精子症、乏精子症、精子無力症、奇形精子症の4つがあります。
そして、その約60%は、病院で検査してもなぜ精子に異常が発生しているのか原因がわからない突発性造精機能障害です。年々、原因不明の男性不妊は増加傾向にありますが、この多くは自律神経と関連していると考えられます。では、男性不妊と自律神経の関係をみていきましょう。
<目次>
精子を作るしくみ(造精機能)
造精機能と自律神経の関係
性機能障害と自律神経の関係
男性不妊と自律神経の関係
精子をつくるしくみ(造精機能)
男性のからだには、精子をつくるための生殖器が備わっています。その中心になる器官が精巣です。精巣の中では、毎日3000万個~2億個の精子が作られています。精巣でつくられた精子は、精巣上体を数日間かけて通過する間に受精する能力を身につけ、成熟精子となり、精巣上体に蓄えられます。精子が受精可能な成熟精子へと成長する期間は、およそ74日間です。
ホルモンの働き
精子が作られる過程では、ホルモンが重要な役割を果しています。ホルモンとは、特定の器官に仕事をするように働きかける物質です。メッセンジャーなどとも呼ばれています。
ホルモンにはたくさんの種類があり、働きかける器官も決まっています。精子が作られるのも、特定のホルモンが血流にのって精巣に届くからです。精巣が勝手に精子をつくっているのではなく、脳から分泌されたホルモンが精巣に届いてはじめて精子が作られるのです。
では、精子が作られるまでのホルモンの流れをみてみましょう。
まず、視床下部(脳の一部分)から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(ゴナドトロピン放出ホルモン)が分泌されます。このホルモンは特に重要です。精子をつくるきっかけとなる、最初のメッセンジャーです。
このホルモンは、血流にのって下垂体(脳の一部分)というところに届きます。これが合図になって、下垂体はFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)を分泌します。2つのホルモンは、女性の生殖機能(月経や妊娠)に関与するような名称ですが、男性の生殖機能にも関与するとても重要なホルモンです。
下垂体から分泌されたFSHが血流にのって精巣に届くと、精子の形成が促されます。FSHが、精子を作るように働きかけているのです。
下垂体から分泌されたもう1つのホルモン、LHは、精巣に届くとテストステロン(男性ホルモン)の生成と分泌を促進します。このテストステロンは、精子形成を促進します。この他にも、男性生殖器(前立腺、精嚢)の機能を維持したり、性欲を亢進させたり、妊娠にとってとても大切な役割を持つホルモンです。
このように、4種類のホルモンが造精にかかわっています。
そして、このホルモン分泌と自律神経には深い関係があります。
ホルモン分泌に影響する自律神経
自律神経は、生命活動を維持したり、生殖機能を調整したりするとても大切な神経です。
自律神経をコントロールする中枢は、脳の視床下部というところにあります。ここには、先にお話した、精子をつくるためのホルモンを分泌する中枢もあります。さらに、怒り・不安感などの情動中枢も視床下部にあります。実は、この3つの中枢(自律神経の中枢、ホルモン分泌の中枢、情動の中枢)はすぐそばにあり、それぞれが密接に関わっています。
身近な例では、驚いたときや緊張したときは、交感神経(自律神経の1つ)が亢進して、心臓がドキドキします。緊張から解放されたときには、副交感神経(自律神経の1つ)が優位に働き、心拍が下がり気持ちは落ち着きます。
このように3つの中枢(自律神経、ホルモン分泌、情動)は協調しながら、生命活動、生殖機能、感情を調整しています。このため精神的ストレスが続くと、自律神経が乱れてホルモン分泌に影響が及び、その結果、造精機能が正常に作動しなくなり、男性不妊を招くことになるのです。
造精機能と自律神経の関係
仕事などで夜更かしを繰り返したり、悩みや心配事などのストレスが続いたりすると、交感神経が過緊張し、副交感神経は抑制され、自律神経はバランスを崩してしまいます。自律神経の乱れは、近接するホルモン分泌中枢に影響を及ぼし、正常な精子が作られにくくなります。さらに、テストステロン(男性ホルモン)の不足を招き、性欲減退やEDなどの性機能障害に繋がります。
ストレスが妊娠によくないのは、このような理由からです。近年増えている原因不明の男性不妊の多くは、自律神経の乱れと深く関係しているのです。
性機能障害と自律神経の関係
次に、精巣で作られた精子を外に放出するしくみについてお話しします。
精子を送り出すしくみ(性反射)には、勃起と射精という2つの現象があります。実は、この現象にも2つの自律神経(交感神経と副交感神経)が深く関係しています。
陰茎に触刺激を加えると、その情報は仙髄に伝えられます。すると、反射性に副交感神経の働きが亢進し、陰茎の細動脈が拡張し充血することで勃起がおこります。また、これとは別に情動刺激によってもおこります。
射精も陰茎の触刺激によっておこります。感覚情報が陰茎から腰仙髄へ伝えられ、反射性に交感神経が亢進することで射精がおこります。また、交感神経が亢進すると陰茎の細動脈は収縮し勃起は終了します。
勃起は副交感神経が優位に働くことでおき、射精は交感神経が亢進することでおきます。
このように、男性の性反射は、2つの自律神経(副交感神経と交感神経)が絶妙なバランスで働くことで成り立っています。男性不妊の原因となる性欲減退やEDなどの性機能障害の多くは、自律神経が関係しているのです。
男性不妊と自律神経の関係
ここまで、自律神経の乱れが、乏精子症や精子無力症などの造精機能障害や、EDや性欲減退などの性機能障害を招くことをお話ししてきました。
そのメカニズムをまとめると、次のようになります。
・脳の視床下部には、自律神経、ホルモン分泌、情動の3つの中枢あり、密接に連動しています。このため、ストレスから引き起こされる自律神経の乱れは、ホルモン分泌に影響を及ぼし、乏精子症や精子無力症などの造精機能障害に繋がります。
・精子を送り出す性反射(勃起と射精)は、2つの自律神経(副交感神経と交感神経)が絶妙のバランスでコントロールしています。過剰な精神的ストレスは自律神経に影響を及ぼし、性欲減退やEDなどの性機能障害を招くことになります。
このように、男性不妊と自律神経には深い関係があります。そしてそのほとんどは、精神的なストレスが原因と考えられます。
<参考文献:生理学 医歯薬出版株式会社>