卵胞と卵子の成長と受精卵ができるまでの過程

卵胞は排卵周期(およそ1か月)ごとに成長して排卵が起きていると思っている人は多いのではないでしょうか?
実はそうではありません。1つの卵胞が成熟して排卵が起きるまでに、およそ6か月以上かかると考えられています(卵胞の発育期間については諸説ありますが、ここでは「病気が見えるvol.9(メディックメディア)平成29年第3版」を引用いたします)。
もし、今、排卵したとすると、それは半年以上前から成長しはじめた卵胞ということです。ということは、過去6か月間の生活が今回の卵胞と卵子の質を左右するわけです。

卵胞と卵子は長い時間をかけて、様々な物質やホルモンが関与しながらとても複雑なプロセスを経て成熟します。その緻密さを知ると、日々の生活習慣や妊娠に向けたからだ作りがいかに大切か、きっと感じていただけると思います。
では、卵胞・卵子の成長プロセスをみていきましょう。

<目次>
1.卵胞の成長過程
2.卵胞の成長に関与する物質
3.卵子の形成から受精卵誕生までのプロセス
4.まとめ

1.卵胞の成長過程

女性は、卵巣の中に一生分の原始卵胞を持って生まれてきます。原始卵胞とは、卵胞のもとになる細胞です。1つの原始卵胞の中に、1つの未熟な卵子があります。

お母さんのお腹の中にいるとき、およそ700万個の原始卵胞をもっていますが、その多くは消滅し、出生時には100万~200万個になります。出生後も原始卵胞は減り、月経がはじまるころには20万~30万個になります。その後は、毎月数百個ずつ減少し、45歳になるころには数千個になります。このように、女性は卵巣の中に100万~200万個の原子卵胞をもって生まれてきますが、年齢とともにその数は減っていきます。
このうち、女性が一生を通じて排卵する卵子の数は、わずか400~500個ほどです。

余談になりますが、よく、年齢を重ねると妊娠しにくくなると言われますが、それは卵胞の数が減っていくという現実があるからです。
でも、考えようによっては、45歳でも数千個もの卵胞がまだ残っているのです。前向きに捉えれば、妊娠の可能性は十分にあると思います。

話を戻しますと、生まれたときから休眠していた原始卵胞は、月経がはじまる頃になると自主的に発育を開始します。15個~20個程度が同時に成長しはじめます。しかし、成熟卵胞まで成長して排卵に至るのは、通常1個です。残りの卵胞は途中で成長を止めて、やがて退縮します。
未熟だった卵子も卵胞とともに成熟して排卵をむかえます。

大まかな流れは以上ですが、もう少し詳しく卵胞の成長過程をみていきましょう。

1-1. 原始卵胞の成長開始

原始卵胞の画像
それぞれの原始卵胞は、1つの未熟な卵子(一次卵母細胞)とそれを守るように囲む細胞(上皮様細胞)の集まりで構成されています。1つの原始卵胞の大きさは約0.035㎜で、すべて休眠しています。
月経を迎えるころになると、原始卵胞は15個~20個程度ずつ、自主的に成長を開始します。卵胞は、発育段階に応じて、次のような名称で呼ばれます。
原始卵胞→一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞(ぜんほうじょうらんほう)→胞状卵胞(ほうじょうらんほう)→成熟卵胞(グラーフ卵胞)

1-2. 原始卵胞から一次卵胞へ

一時卵胞の画像
未熟な卵子(一次卵母細胞)を包む上皮様細胞は、一層の顆粒膜細胞(かりゅうまくさいぼう)に変化して、一次卵胞と呼ばれるようになります。一次卵胞の大きさは、約0.045㎜です。
原始卵胞が発育を開始してから、一次卵胞に成長するまでの正確な期間はまだ明らかになっていません。

1-3. 一次卵胞から二次卵胞へ

二次卵胞の画像
未熟な卵子(一次卵母細胞)を包む顆粒膜細胞(かりゅまくさいぼう)はさらに厚さを増して、二次卵胞へと成長します。
一次卵胞から二次卵胞へは、90日以上かけて発育します。

1-4. 二次卵胞から前胞状卵胞(ぜんほうじょうらんほう)へ

前胞状卵胞の画像
二次卵胞の外側を別の細胞(莢膜細胞(きょうまくさいぼう))がさらに包み、前胞状卵胞(ぜんほうじょうらんほう)と呼ばれるようになります。1つの前胞状卵胞の大きさは0.15~0.2mmです。
二次卵胞から前胞状卵胞へは、25日ほどかけて成長します。

1-5. 前胞状卵胞から胞状卵胞(ほうじょうらんほう)へ

胞状卵胞の画像
前胞状卵胞(ぜんほうじょうらんほう)の中に空間があらわれ、胞状卵胞(ほうじょうらんほう)へと成長します。あらわれた空間は、卵胞腔(らんほうこう)と呼ばれ、中は液体(卵胞液)で満たされます。
胞状卵胞の大きさは、約0.2mm~0.4㎜です。

1-6. 胞状卵胞から成熟卵胞へ

成熟卵胞の画像
その後、胞状卵胞はゆっくりと成長します。2㎜~5㎜ぐらいの大きさなると、月経周期に伴うホルモンの影響をうけて、およそ14-20日で急速に成熟卵胞に成長します。月経後、排卵に向けて発育しているのは、胞状卵胞です。排卵直前には大きさは約20mmに成長します。成熟した卵胞は、グラーフ卵胞とも呼ばれ、排卵のときを迎えます。
前胞状卵胞から胞状卵胞を経て成熟卵胞に成長する期間はおよそ60日間です。

1-7. 卵胞の成長過程のまとめ

原始卵胞から成熟卵胞への発育過程をまとめると、下図のようになります。
原始卵胞から成熟卵胞への成長過程の画像
原始卵胞は、15個~20個程度が同時に発育を開始しますが、成熟卵胞(グラーフ卵胞)まで成長して排卵に至るのは、通常1個です。およそ6か月以上かけて原始卵胞から排卵可能な成熟卵胞(グラーフ卵胞)になります(図の一番下の「日数」を参照してください)。
この卵胞のことを、主席卵胞と呼びます。残りの卵胞は発育過程で順次、成長を止めて退縮します。成長を止めた卵胞は、閉鎖卵胞と呼ばれます。

2.卵胞の成長に関与する物質

生まれたとき、原始卵胞の状態で休眠していた卵胞は、思春期以降、15個~20個ずつ、順次、成長を開始するので、卵巣には様々な発育段階の卵胞が存在します。
卵胞は、半年以上かけて成長し成熟します。その発育過程はさまざまなホルモンなどが関与する、とても複雑なプロセスです。
ここでは、卵胞の成長にどのような物質が関与しているのか、詳しくみていきましょう。

2-1. 原始卵胞の成長に関与する物質

原始卵胞から一次卵胞、そして、二次卵胞へと成長していく期間は、主にアクチビンと呼ばれる物質が発育に関与します。

原始卵胞に作用するアクチビンの画像
アクチビンとは卵胞の顆粒膜細胞でつくられる生理活性物質です。
アクチビンは、分泌した卵胞自身と周囲の卵胞の発育を促進します(図①)。
分泌した卵胞自身の発育を促進することをautocrine作用といいます。
周囲の卵胞の発育を促すことを、paracrine作用といいます。
アクチビンの作用で、15~20個の原始卵胞が同時に発育を開始し、一次卵胞に成長します。

2-2. 二次卵胞の成長に関与する物質

二次卵胞に成長する頃には、アクチビンの作用により、卵胞の顆粒膜細胞に「FSH受容体」というものがあらわれます(図)。

FSH(卵胞刺激ホルモン)は、脳の下垂体というところから分泌され、血流にのって卵巣に運ばれ、卵胞を刺激して発育を促すホルモンです。また、受容体とはある特定のホルモンを受け取るものです。
つまり、FSH受容体とは、FSHを受け取るものです。
FSH受容体があらわれることによって、卵胞はFSH(図の緑の丸)を受けとれるようになり、この作用で発育が進みます。
インヒビンとエストロゲンが卵胞に作用する画像
脳の下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)の作用で、二次卵胞は前胞状卵胞へ、そして、胞状卵胞へと成長を進めます。
FSHの作用で、卵胞内ではインヒビンという生理活性物質もつくられるようになります(図②)。一方で、FSHは、アクチビンの産生を抑制します。かわりに卵胞からエストロゲンというホルモンが分泌されるようになります(図④)。エストロゲンは卵胞の発育に関与するホルモンで、FSHとともに卵胞の発育を促進します(図⑥)。
また、エストロゲンには、子宮内膜を厚くする作用もあります。受精卵が着床しやすいように内膜を育てます。

2-3. 胞状卵胞の成長に関与する物質

成長を続ける主席卵胞の画像
この時期になると、インヒビンとエストロゲンの作用により、成長を促すFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌量は低下します(図①)。
自身の発育に必要な量のエストロゲンをつくっている卵胞(主席卵胞)だけは、FSHが低下しても発育をつづけ、成熟卵胞に育ちます(図②)。
その他の卵胞は、成長を止め閉鎖卵胞になります。

*複数の卵胞が同時に発育を開始して、大多数は閉鎖卵胞になる理由についてはまだ明らかになっていませんが、1つの卵胞(主席卵胞)の成熟に必要な量のホルモンを分泌するため、他の閉鎖卵胞が内分泌腺として働き、ホルモンを分泌している、という考え方があります。

2-4. 卵胞の成長に関与する物質のまとめ

このように、アクチビンやインヒビンなどの生理活性物質や、FSHやエストロゲンなどのホルモンが、互いに分泌量や作用を調節することで、卵胞の発育に関与していると考えられています。
科学の進歩により、様々な物質はみつかっていますが、卵胞発育のメカニズムはまだ完全には明らかになっていません。アクチビンやその他の生理活性物質が、どのようにして分泌されるようになるのか、何をきっかけに分泌されるようになるのかなど、まだ多くのことが不明です。

3.卵子の形成から受精卵誕生までのプロセス

私たちのからだは、約60兆個の細胞が集まってできています。皮膚や骨、筋肉、内臓などは、沢山の細胞から構成されています。一方、卵子精子は、1個1個の細胞です。
細胞は分裂して数を増やしますが、その分裂方法には2種類あります。
1つは、骨や筋肉、皮膚など身体をつくっている体細胞が増殖するときに行う分裂方式で、これを体細胞分裂といいます。人は体細胞分裂をおこすことで成長していきます。
2つ目は、卵子や精子を形成するときにおきる減数分裂です。
体細胞分裂では分裂後も染色体の数は同じですが、減数分裂では染色体の数が最終的に半分になります。染色体はその中に、みなさんも聞いたことがある遺伝子(DNA)を持っています。
卵子と精子は減数分裂によって、受精する能力を獲得します。
卵子と精子が受精すると、卵子と精子の核というものが融合して受精卵になります。融合する核のなかには、それぞれの染色体(DNA)があります。

では、卵子の形成から受精卵の誕生までの過程をくわしく見ていきましょう。

3-1. 原始生殖細胞から一次卵母細胞へ

女の子がお母さんのお腹の中にいる頃、卵子の元になる細胞が作られ、その後、段階を経て卵子に成熟していきます。

まず、妊娠6週頃に原始生殖細胞という、のちに卵子に成長する細胞があらわれます。妊娠18週の頃になると、原始生殖細胞は、卵祖細胞(らんそさいぼう)へと分化します。卵巣内で、卵祖細胞(らんそさいぼう)は体細胞分裂を繰り返してその数を増やし、一次卵母細胞になります。

3-2. 一次卵母細胞から二次卵母細胞へ

一次卵母細胞がつくられると、まわりを別の細胞(上皮様細胞)が包み込み、最初の卵胞である原始卵胞が作られます。
原始卵胞の画像
お母さんのお腹の中にいるうちに、すべての一次卵母細胞は、1回目の減数分裂を開始して前半で休止します。
およそ700万個の原始卵胞が形成されますが、その後は新しく卵子になる細胞はつくられることなく、その数は減少していきます。
そして、およそ100万~200万個の原子卵胞を持って生まれてきます。それぞれの原子卵胞には、休止した状態の一次卵母細胞が1つあります。
女の子は出生してから思春期に排卵が始まるまで、1回目の減数分裂は休止したままの状態ということになります。

思春期に入ると、原子卵胞は成長を開始します。原始卵胞は、先述のように、15個~20個程度が同時に発育を開始しますが、成熟卵胞にまで成長して排卵に至るのは、通常、1個です。

成熟卵胞の中にある一次卵母細胞は、排卵直前の「LHサージ」というホルモンの急上昇がきっかけになって、休止していた1回目の減数分裂を再開します。

*LH(黄体形成ホルモン)とは、脳の下垂体というところから分泌されるホルモンで、排卵を促す作用があります。排卵直前にはLHが大量に分泌されます。この現象のことを「LHサージ」と呼んでいます。

排卵の直前に1回目の減数分裂は終了し、二次卵母細胞第一極体になります。第一極体は、やがて退化します。

二次卵母細胞と第1極体の画像
図は、排卵直前に1回目の減数分裂が完了したときの顕微鏡写真です。二次卵母細胞(卵子)と小さな第一極体がみえます。この第一極体の有無が、二次卵母細胞(卵子)成熟の指標の1つです。
一般的に言われている排卵とは、医学的には、二次卵母細胞成熟卵胞(グラーフ卵胞)から飛び出すことをいいます。

3-3. 排卵から受精卵の誕生へ

受精の画像
LHサージ開始から、約40時間後に排卵はおきます。
排卵後、二次卵母細胞はすぐに2回目の減数分裂を始めますが、途中でまた休止します。
その後、精子の進入(受精)による刺激を受けると、2回目の減数分裂は再開します。
精子は尾部を残して、二次卵母細胞の中に進入します。
成熟した卵子の画像
受精の完了とともに二次卵母細胞は減数分裂を完了して、成熟した卵子と第二極体になります。
卵子の染色体は核膜が形成され「雌性前核」になります。精子の核膜は一端消失して、核染色体は膨化します。

体外受精では、極体が2個になったことで、受精の成功を確認しています。文献によっては、3個の極体と書かれたものもありますが、これは、動物の種類によるもので、ヒトの受精卵の極体は2つです。

雄性前核の画像
膨化した精子の染色体は再び核膜が形成され、「雄性前核」になります。
受精卵の誕生の画像
卵子の核と精子の核が融合すると、受精卵の誕生です。
第1極体と第2極体は、やがて退化して消えてしまいます。

4.まとめ

卵胞と卵子は、様々な物質が関与しながら、長い時間をかけて、とても複雑なプロセスを経て成熟します。
生まれたときからずっと休眠していた原始卵胞は、思春期の頃になると自発的に発育を始め、半年以上かけて原始卵胞から成熟卵胞に成長します。15個~20個の原始卵胞が同時に成長を始め、成熟卵胞まで育つのは1個です。卵子の成長過程では、2回の減数分裂があり、その途中で休止と再開を繰り返します。この間、生理活性物質やホルモンなど様々な物質が作用します。
緻密なプロセスが1つ1つ着実に進んではじめて、卵胞と卵子は成長し、排卵のときを迎えることができるのです。そして、健康な精子と出会い、卵子と精子の核が融合すると、ついに受精卵の完成です。

よく妊娠は奇跡的なことと言われますが、まさにその通りだと思います。受精卵の誕生はとても神秘的で奇跡的です。その奇跡を起こすためには、妊娠に向けた体作りと日々の生活習慣がとても大切と考えます。

<参考文献>
病気が見えるvol.9,vol10 メディックメディア
生理学 医歯薬出版株式会社

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著者プロフィール 磯部律元

2013年「はなもも鍼灸治療院」を開設。東洋医学に精通し鍼灸師として数多くの施術を手掛ける。同時に、生理学、解剖学、病理学などを学び、人体のしくみについて造詣を深める。
妊活、妊婦の施術を得意とし、自律神経の乱れや慢性化した痛みなどにも幅広く対応している。のべ1万人以上の施術実績を持つ。
根本治療的な鍼灸とここちの良い施術を追求しつづけている。