卵子の成熟に欠かせないATP(活動エネルギー)や、受精卵の着床に重要な役割を果たしているビタミンDの体内生成が、日光浴で促進されることがわかっています。
そこで今回は、妊活における日光浴の有益性と適度な日光浴の時間についてお伝えします。
<目次>
1. ATP(活動エネルギー)の産生を促進する
2.ビタミンDの体内生成を進める
3.セロトニンの体内合成を促す
4.まとめ
ATP(活動エネルギー)の産生を促進する
妊活における日光浴の有益性を最初にあげるとしたら、「ATP(活動エネルギー)の産生が促進される」ということではないでしょうか。
ATPは人間が生きていくために必要な活動エネルギーで、人の生命活動を支えています。卵子や子宮内膜の成熟にも必要です。ATPは細胞内で作られています。食事から摂った栄養素や呼吸で得た酸素が血流にのって人体を構成しているおよそ60兆個の細胞に届けられ、それらを原料にしてATPは生成されます。
もう少し詳しく説明すると、1つ1つの細胞の内側にはミトコンドリアというATPを作り出す小さな器官が存在しています。細胞に運ばれてきた多種多様な栄養成分は、ミトコンドリアの内部でさらに分解され、水素が取り出されます。そして、この水素が呼吸で得た酸素と結びつく過程で多量のATPが生み出されます。
実は、このATP産生には栄養と酸素以外に太陽光が深くかかわっています。先程、水素が取り出されるとお話しましたが、この水素を取り出すときに必要になるのが太陽光です。太陽光に含まれる紫外線には、分解された栄養素から水素分子をとりだす役割があるのです。
わたしたちは太陽の光を浴びると、体がポカポカと温まり心地良く感じます。これは、紫外線のはたらきで栄養素から水素分子が次々にとりだされ、ATPの産生が活発になるからと考えます。
受精卵のもとになる卵子には10万個のミトコンドリアが存在します。この膨大な数のミトコンドリアが作り出すATPを使って卵子は成熟し、受精卵は細胞分裂を繰り返して胎児に変わっていきます。
ATPを中心に妊娠を考えると、太陽光がいかに大切な役割を担っているのかわかります。
よろしければ、こちらの記事も合わせてご覧ください。
参考:カリウム40(微量放射線)の役割
カリウム40とは、野菜や果物に含まれている「微量放射線」のことです。放射線と聞くとちょっと怖くなりますが、自然界に存在するごく微量の放射線で、これもATP(活動エネルギー)の生成にとても大切な役割を果しています。
カリウム40は野菜や果物と一緒に体内にとり入れられ、細胞まで運ばれます。カリウム40の微量放射線が細胞内でミトコンドリアにあたると、栄養素から水素が取り出されます。太陽光と同様に、ATPを作り出す過程で重要な役割を担っています。
畑でとれる野菜や果物には、妊娠のために必要な栄養素に加えてATPの生成を進める微量放射線も含まれているのです。
ちなみに、カリウム40は、放射線を出して崩壊するとカルシウムに変化します。なので、野菜をしっかり食べていればカルシウムも一緒に補われます。
お日様を浴び、畑でとれた新鮮な野菜や果物をしっかり食べることが、卵子の成熟、受精卵の着床に繋がっていくと考えます。
ビタミンDの体内生成を進める
ビタミンDは食品からの摂取以外に、太陽の紫外線の作用で皮膚でも作られることがわかっています。
不妊治療とビタミンDの関係
ビタミンDは、不妊治療において大切な栄養素の1つであることが、国内外の研究から示唆されています。その主な内容を紹介すると、
1.体外受精を受けた女性500人を対象に「血中ビタミン濃度と妊娠率の関係」を調査したイギリスの研究では、血中ビタミンD濃度が充足しているグループの方が不足しているグループに比べて妊娠率が高く、また、流産率も低い結果だったと報告されています※1。
2.ビタミン D の投与が不妊の原因になる多嚢胞卵巣症候群(PCOS)の改善に役立つ、という研究報告もあります※2。
3.また、ビタミンDが卵巣予備能(AMH)の改善に繋がる可能性があることや※3、子宮内膜で受精卵の着床に必要な遺伝子の発現に関わっていることも示されています※4。
4.女性に限らず、男性の精子の運動能力、受精能力の促進に作用することも報告されています※5。
これ以外にも、ビタミンDにはカルシウムの吸収を助けたり、免疫力を高める働きもあるので妊活に欠かせない栄養素の1つと考えます。
<出典>
※1 Justin Chu Reprod Health.2019; 16: 105.
※2 Pludowski P, Holick MF, Pilz S, Wagner CL, Hollis BW, Grant WB, Shoenfeld Y, Lerchbaum E, Llewellyn DJ, Kienreich K, Soni M (2013) Vitamin D effects on musculoskeletal health, immunity, autoimmunity, cardiovascular disease, cancer, fertility, pregnancy, dementia and mortality-a review of recent evidence. Autoimmun Rev 12, 976-989 1
※3 Naderi Z, Kashanian M, Chenari L, Sheikhansari N. Evaluating the effects of administration of 25-hydroxyvitamin D supplement on serum anti-mullerian hormone (AMH) levels in infertile women. Gynecol Endocrinol. 2018;34(5):409-412.
※4 Rots NY, Liu M, Anderson EC, Freedman LP (1998) A differential screen for ligand-regulated genes: identi¿cation of HoxA10 as a target of vitamin D3 induction in myeloid leukemic cells. Mol Cell Biol 18, 1911-1918 22)
Du H, Daftary GS, Lalwani SI, Taylor HS (2005) Direct regulation of HOXA10 by 1,25-(OH)2D3 in human myelomonocytic cells and human endometrial stromal cells. Mol Endocrinol 19, 2222-2233
※5Blomberg JM, Bjerrum PJ, Jessen TE, Nielsen JE, Joensen UN, Olesen IA, Petersen JH, Juul A, Dissing S, Jørgensen N (2011) Vitamin D is positively associated with sperm motility and increases intracellular calcium in human spermatozoa. Hum Reprod 26, 1307-1317
ビタミンDの必要量
厚生労働省の調査によると、一日に必要なビタミンDの摂取量は約15㎍とされています。このうち食事からの摂取は10㎍、太陽光による体内生成は5㎍と想定されています。
ところが、実際の日本人の食事内容と食事量ではなかなか10㎍は摂取しきれないというのが現状のようです。これを踏まえ、厚生労働省は食事によるビタミンD摂取の実現可能な目安量は、1日約8.5㎍(18歳以上の男女、妊婦、授乳婦)と設定しました。
これに加えて、「日常生活において可能な範囲内での適度な日光浴を心掛けること」としています※6。
<出典>
※6 厚生労働省ホームページ 日本人の食事摂取基準(2020 年版)
適度な日光浴の時間の長さは?
ここで気になるのが「1日に何分くらい日光浴をするといい?」ということですが、ご存じの方も多いと思いますが太陽光の紫外線を長時間浴すぎると、皮膚がんや目の病気など体に害が及ぶことが知られています。また、住んでいる地域、季節、時間帯によって紫外線の強さは異なるため、一様に何分がいいとはいいきれません。
そこで、日光浴時間の目安になる情報を2つ紹介します。
1.まず厚生労働省のWEBサイトで、皮膚に有害な作用(紅斑)を起こさない範囲でビタミンD の産生に必要な日光浴時間が紹介されています※7。
それによると、晴天の日に顔と両手の甲を露出した状態、たとえば長袖と長ズボンのような服装で、5.5㎍のビタミンDを産生するのに必要な時間は下表のようになります。
表1.5.5 µg のビタミン D 量を産生するために必要な日照曝露時間(分)
測定地点 | 7月 | 12月 | ||||
9時 | 12時 | 15時 | 9時 | 12時 | 15時 | |
札幌 | 7.4 | 4.6 | 13.3 | 497.4 | 76.4 | 741.7 |
つくば | 5.9 | 3.5 | 10.1 | 106.0 | 22.4 | 271.3 |
那覇 | 8.8 | 2.9 | 5.3 | 78.0 | 7.5 | 17.0 |
<出典>
※7 厚生労働省ホームページ 日本人の食事摂取基準(2020 年版)P181
これからすると、普段から買い物や仕事などで外出の機会がある人は、夏の晴れた日は日光浴をそれほど意識しなくても、外出時間だけで足りると思われます。むしろ、紫外線の浴びすぎにならないように気をつけた方がよさそうです。しかし、在宅勤務などで外に出る機会が極端に少ない人は、適切な日光浴を心がけるといいでしょう。
一方、冬は、那覇の昼前後は別として、ある程度の日光浴を意識ないとビタミンDが不足する恐れがありそうです。特に、日光浴に長い時間を費やせないという人は、食事でしっかり摂ることが大切です。
地域、季節、時間帯、服装、食事内容などの条件によって適切な日光浴時間は異なりますが、あえて昼間の目安をあげるとしたら、
・北部地域 夏5分、冬76分程度
・中部地域 夏4分、冬22分程度
・南部地域 夏3分、冬8分程度
と考えます。
もちろん、紫外線に対して肌の強い人もいれば弱い人もいますので、これはあくまで目安とお考え下さい。
2.さらに詳しく日光浴時間を知りたいという人には、国立環境研究所地球環境センターの「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」というWEBサイトがあります。
ここでは国内13カ所の地域別に、リアルタイムで「ビタミンD を10μg生成するために必要な日光浴時間」と「皮膚に害が及ぶまでの時間(紅斑紫外線照射時間)」を公開しています。
ちなみにここでは、ビタミンDの必要摂取量を、成人を対象に一日で15µgとし、そのうち約5µgを食物から摂取し、残りの10µgを紫外線から体内生産するということを想定しています。
たとえば今日2022年6月4日の昼12時、「つくば」で日光浴に適した時間は次のようになります。
肌の露出1200cm2(顔と腕と足を露出)の場合 | 5分 |
肌の露出600cm2 (顔と手の甲を露出)の場合 | 10分 |
皮膚に悪影響が出はじめる時間 | 30分 |
このサイトでは、今お住まいの場所により近い地域での「適度な日光浴時間」と「皮膚に害が及ぶまでの時間」の両方がわかるので、気になる人はぜひチェックしてみてください。
参考までに厚生労働省の調査によると、紫外線による皮膚での産生量は調節されていて、必要以上のビタミン D は産生されないので、日光浴によるビタミン D 過剰症の心配はありません。むしろ、紫外線の浴びすぎによる体への影響を考慮することが大切です。
セロトニンの体内合成を促す
日光浴をすると、体内ではセロトニンの合成も盛んになります。
セロトニンは精神を安定させる物質で、「幸せホルモン」とも呼ばれています。
具体的には、ストレスの軽減や安眠などに役立つので、妊活の手助けになると考えます。
まとめ
これまで、妊活における日光浴の有益性、適度な日光浴の時間の長さについてお話してきました。
ポイントをまとめると次の3つです。
・日光浴によって、妊娠に有益なATP、ビタミンD、セロトニンの体内生成が促進される。
・適切な日光浴の時間の長さは、季節、地域、その人の生活スタイル、肌の強さによって変わる。
・紫外線は長時間浴びると体に害が及ぶ。
これらを踏まえ、厚生労働省、国立環境研究所地球環境センターのWEBサイトなどを参考にして、適度な日光浴を妊活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
・卵子力をアップさせるライフスタイルBOOK 学研パブリッシング
・人が病気になるたった2つの原因 講談社