「不妊治療を続けても成果が出ない」といって来院される患者様の中には、自律神経の乱れが原因と思われるケースがあります。
自律神経の乱れは知らず知らずのうちにホルモンバランスを崩し、排卵障害、着床不全など不妊の原因になることがあります。
<目次>
1.妊娠におけるホルモンの役割
2.ホルモン分泌と自律神経の関係
3.ホルモン輸送と自律神経の関係
4.自律神経の乱れと不妊の関係
参考:鍼灸治療について
妊娠におけるホルモンの役割
妊娠には、ホルモンがとても重要な役割を担っています。
ホルモンは、血液循環とともに全身に行き渡り、特定の器官に作用する物質です。たくさんの種類があり、作用する臓器も1つ1つ決まっています。
卵胞や子宮内膜が成熟できるのも、特定のホルモンが血流にのって卵巣や子宮に届くからです。卵胞や子宮内膜は自ら成長するわけではなく、ホルモンが届いてはじめて成長しはじめるのです。
ホルモン分泌のしくみ
妊娠に関与するホルモンは主に4つあります。FSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)、エストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)です。このうち、エストロゲンとプロゲステロンは、別名、女性ホルモンと呼ばれています。
各ホルモンの分泌される流れと主な働きをまとめると図のようになります。
月経周期に伴って約1か月サイクルで変化するホルモン分泌は、脳の間脳視床下部にあるホルモン中枢がコントロールしています。
では、各ホルモンが分泌されるしくみとその働きをみていきましょう。
FSH(卵胞刺激ホルモン)
FSHが血流によって卵巣に到着すると、それが合図となって原始卵胞(卵胞の元となる細胞)が成長を開始します。
もし、FSHが分泌されないと、卵胞は成長しません。当然、排卵も起きないことになります。
エストロゲン(卵胞ホルモン)
無事に卵胞が大きく成長すると、卵巣からエストロゲン(卵胞ホルモン)という女性ホルモンが分泌され、その作用で子宮内膜が厚くなります。
もし、エストロゲンが不足すると、子宮内膜が育たず、受精卵の着床不全につながることがあります。
LH(黄体形成ホルモン)
卵胞が成熟してエストロゲンの分泌量がある一定濃度を超えると、ホルモン中枢がこれを感知して、今度はFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌は抑えて、代わりにLH(黄体形成ホルモン)を分泌するように下垂体に指令を出します。このしくみをポジティブフィードバックといいます。
これは、「卵胞が十分に成熟したので、もうFSHは必要ないよ。かわりに、排卵をうながすLHを分泌して」とホルモン中枢が下垂体に命令するわけです。
このLHの作用で、排卵が起こります。
もし、LHが分泌されないと、無排卵になる可能性があります。
プロゲステロン(黄体ホルモン)
排卵後、卵胞はLHの作用で黄体に変わり、プロゲステロン(黄体ホルモン)とエストロゲン(卵胞ホルモン)を分泌します。
この2つの女性ホルモンの働きで、子宮内膜は厚くふかふかに成長して、受精卵の着床しやすい内膜が完成します。
受精卵が無事に着床すると、妊娠を維持するために引き続きプロゲステロン(黄体ホルモン)は分泌されます。
もし、プロゲステロンが不足すると、せっかく受精卵ができても、着床できなかったり、着床したとしても流産になるおそれがあります。
以上のように、妊娠には4種類のホルモンが関与し、それぞれがバランスよくベストのタイミングで分泌されることで妊娠の条件がそろうわけです。
そして、ホルモン分泌と自律神経には深い関係があります。
ホルモン分泌と自律神経の関係
自律神経は心拍、血圧、体温などの体内環境を調節するとても大切な神経です。自律神経をコントロールする中枢は、前述の間脳視床下部にあります。ここには、ホルモンをコントロールする中枢の他に、怒り・不安感などを司る情動中枢もあります。
身近な例では、驚きや緊張を感じると、交感神経(自律神経の1つ)が働いて、心臓がドキドキします。一方、恐怖や緊張から解放されると、副交感神経(自律神経の1つ)が作用して、心臓のドキドキがおさまり気持ちは落ち着きます。
このように3つの中枢(自律神経、ホルモン分泌、情動)は連携しながら、体内環境、生殖機能、感情を調整しています。
このため心配事などの精神的ストレスが続くと、自律神経が乱れてホルモン分泌に影響が及びます。その結果、ホルモンバランスが崩れて子宮内膜や卵胞が正常に成長できなくなり、不妊を招くことになるのです。
また、エストロゲンは自律神経を活性化するため、ホルモンバランスが崩れると自律神経はますます乱れるという悪循環に陥ってしまいます。
ホルモン輸送と自律神経の関係
ここまで、自律神経の乱れが、<ホルモン分泌>に影響を及ぼすことをお話ししてきましたが、影響は他にも考えられます。
それは、<ホルモン輸送>です。
先述のように、ホルモンは血液循環によって卵巣と子宮に届けられます。つまり、血流にはホルモンを輸送するというとても重要な役割があるのです。
ところが自律神経の乱れは、この血流にも影響します。自律神経は血管の拡張と収縮を調整しています。交感神経が活発になると血管が収縮し、副交感神経が活発になると拡張します。
不規則な生活を繰り返したり、人間関係などのストレスが長く続いたりすると、交感神経が過緊張し、副交感神経は抑制され、血管は過収縮してしまいます。
この状態が長く続くと、ホルモン輸送が滞り、ホルモンバランスが崩れて、無排卵や着床不全を招くことになると考えられます。
自律神経の乱れと不妊の関係
これまで、自律神経の乱れは、ホルモンバランスを崩し、不妊の原因になることをお話してきました。
そのメカニズムをまとめると次のようになります。
- 自律神経、ホルモン分泌、情動の3つの中枢は間脳視床下部にあり、それぞれ密接に連動している。このため、ストレスから引き起こされる自律神経の乱れは、<ホルモン分泌>に影響を及ぼし、その結果、ホルモンバランスが崩れ排卵障害や着床不全を招くと考えられる。
- 自律神経は、血管の収縮と拡張をコントロールしている。自律神経が乱れて血管の過収縮が続くと、<ホルモン輸送>が滞り、その結果、卵胞や子宮内膜の成長に影響が及ぶと考えられる。
自律神経が乱れる2大原因は、精神的ストレスと生活リズムの乱れです。自律神経に起因する不妊を克服するためには、よく言われている「ストレスを溜め込まない、規則正しい生活を送る」といった『妊活の基本』を、できる限り守ることがやはり大切です(参照:自律神経にとって優しい生活リズム)。
参考:鍼灸治療について
私の施術経験からすると、自律神経の乱れに起因する不妊は、原因不明不妊の中に意外と多く隠れていると考えられます。原因不明不妊とは、不妊検査を受けても何の異常も検出されない不妊症です。
明らかな自律神経失調症であれば重い症状があらわれるので、本人も異変に気づきますが、軽度の場合は、「疲れているだけ」と気づかないことがあります。特に、自律神経の乱れによる<血流の滞り>は、からだに顕著な異状があらわれるわけでもなく、また、検査を受けても数値にあらわれるわけでもないため、見落とされことがあります。こういったケースが原因不明不妊の方の中に度々みられます。
血流が悪くなると<ホルモン輸送>がうまくいかなくなります。そうなると、せっかく薬や注射でホルモンを補っても、卵巣や子宮に十分に届かないおそれがあります。不妊治療を続けてもなぜか成果があらわれない大きな原因の1つは、「自律神経の乱れに起因する血流の悪化」と考えられます。
【こんなサインに要注意】
次のような不調を感じる場合、自律神経が少し乱れているかもしれません。
- 生理周期が乱れることがある
- 生理痛が重い時がある
- なんとなく疲れやすい
- 肩がこりやすい
- 食欲がわかない時がある
- 便秘ぎみ、あるいは、下痢することが多い
- 時々、立ちくらみやめまいがする
- 眠りが浅い、あるいは、よく眠れない日がある
- 頭痛がする
- 手足が冷えやすい
もちろんこれら以外にも、からだは何らかのサイン(異状)を発します。本院では、自律神経のわずかな異変も見落とさないように、東洋医学に基づく四診を駆使して、脈、お腹、肌膚、舌、ツボなどにあらわれる異状や、病歴、外傷などの情報から総合的に判断します。四診とは、望診、聞診、問診、触診の4つを用いて、からだに潜む異状を見極める、東洋医学独特の診断方法です。
もし、自律神経の乱れが認められた場合は、自律神経を整える施術と子宝鍼灸治療の両方を行います。
不妊治療の成果がなかなか出ず、はっきりした原因もわからない方は、もしかしたら自律神経が少し疲れているのかもしれません。心当たりのある方は、一度、ご相談ください。
<参考文献>
生理学 医歯薬出版株式会社